開発者が語るThinkPad Tablet 2 - ユーザーエクスペリエンス・ハードウエア

ThinkPad Tablet 2

2回目の開発者が語るThinkPad Tablet 2 - 機構設計・工業デザインに続き、開発者たちの生の声をお届けします。

3回目は、ユーザーエクスペリエンスに直結する、タッチパネルやデジタイザーペンのハードウエア開発を中心に語ります。携帯電話のユーザー側に立った設計指標策定などの経験があるエンジニアと、LCDの回路設計からスタートし現在タブレット機のLCDを担当する、サブシステム部門の2名にインタビューしました。

 

- Tablet 2は画面が美しくタッチパフォーマンスが良いと評判ですね。

川北: 嬉しい事ですね。タッチ技術については以前から研究を進めてきたのですが、その成果がTablet 2には活かされています。

実はタッチのスムースさやレスポンスの良さなどの、総合的なパフォーマンスを測定する明確な手法は存在していなかったので、その手法の開発から始めなければなりませんでした。ある程度手法が完成した時には、それなりの自信は芽生えていました。

ただし、ひとりよがりになってはいけません。開発した手法で測定した結果を、検証する必要があります。そこで、同様の研究を進めていたある大手IT企業の研究所に協力を求め、カリフォルニアにTablet 2を持ち込んで、競合他社機種との比較評価をしてもらいました。評価結果は私の手法と同じだったので、「これで行こう!」と決めました。

Tablet 2の結果は"Excellent"。今最も有名な他社タブレットと比較しても遜色ありません。

 

タッチパフォーマンスの比較グラフ

土橋:Tablet 2 はThinkPadの純粋なタブレット機としては初の「IPS方式液晶パネルとダイレクトボンディング」という最高の組み合わせになっています。

更にTablet 2は、ダイレクトボンディングというLCDとガラスを樹脂で直接貼り付ける製造方法を採用しました。画面は美しく、反射を低減でき、ペン入力視差と入力音も低減できます。視差の少なさは、デジタイザーペンの使いやすさにもつながります。更に、本体の厚みの薄型化にも貢献しています。

 

- 現時点では、タッチパネルの品質は最高クラスと言えるということですね。コストは?

土橋: コストがかかる技術ですが、最小限に抑え採用しました。製品価格に対する完成度は、充分満足いくものになったと思います。今後は業界でもこの流れが主流になっていくでしょうし、リーディングカンパニーとしては、当然チャレンジすべき事だったと思っています。

そしてもうひとつの高品質な面があります。今回のLCDは、RGB各8ビットの24ビットの本物のフルカラーです。多くの製品に使われている、RGB各6ビットの18ビットの疑似フルカラーと比べ、特に色の再現性やグラデーションは美しくなります。それも評価の高い理由の一つだと思います。

川北: 優秀なタッチパフォーマンスを実現するには、ハードウエアの品質だけでなく、ファームウエアの品質・Intelとの協業・Microsoftとの協業などを含めた総合的な開発が必要です。

ですから、手法の開発も決してハードウエア寄りで行った訳ではありません。いかに「気持ちよく使えるか」という、人間の感覚を数値化したものを指標にしています。感性工学に近いかも知れません。

このようなユーザーエクスペリエンスを考慮した開発は、大和研究所だからこそ高いレベルで実現できたんだと思います。

 

-  Tablet 2はデジタイザーペンも特徴の一つですね。先ほど、ペンの使いやすさについての話もありました。具体的には?

土橋: 多くの製品に使われている、LCDとガラスの間に隙間のできるエアボンディングという製造方法では、ユーザーのペン入力時にわずかに「視差」が出ます。「視差」とは、見る位置によって変わってしまう、実際のペン先とペン入力される場所の誤差の事です。

一方、Tablet 2のダイレクトボンディングではガラスのすぐ下がLCDの表示部なので、その誤差が小さくなり、よりダイレクトな紙に書くのに近い入力感覚があり、気持ち良いんです。更に音。音が響きやすい空間つまり隙間がないので、ペンがガラスに当たった時の「コツコツ」という音も小さくなります。

デジタイザーペン自体は、今回は電池を内蔵しないコンパクトなアクティブペンを採用しています。ペンの中にはコイルが入っていて、LCDの下のデジタイザーシートがコイルを感知し、高い精度でペンを検出します。通常の静電ペンと比べ10倍以上の精度があり、小さい文字でも書けるので、ボールペンに近い入力感覚があり、これも気持ち良いんです。

ポータビィティーとユーザビリティーを両立して、タブレットには最適なデジタイザーペンを実現できたと思います。

 

- なるほど。ユーザーエクスペリエンスに直結する、「気持ち良さ」が大きなテーマだったんですね。開発秘話や苦労話はありますか?

川北: 苦労話ばっかりですが・・・(笑)。

Windows 8では、タッチパフォーマンスがロゴ認定の要件のひとつですが、テスト機は安定せず大変でした。ベータテストを実施したのですが、綱渡りでしたね。理由は明確だったので交渉を重ねて改善にこぎつけ、なんとか切り抜けました。

しかし、ふーっとしていたのも束の間。最大のピンチが来ました。

その後にLAN通信している状態でのタッチパフォーマンスのテストがあったのですが、なぜかワイアレスLAN通信だとどうしてもテストをパスできませんでした。台湾のテスト施設で行なわれたのですが、台北の秋葉原(笑)というか電気屋街に行って、50MのLANケーブルを急遽購入しました。テスト施設内のLAN挿し口とテスト現場があまりにも遠かったので・・・。施設の方にお願いして、施設内にLANケーブル引き回させてもらいました。ある日ようやくパスできたのが、夜の10時でした・・・。

しかし、このような経験からノウハウが蓄積されたので、大和研究所内で共有しようと考えています。

土橋: eコンパスがうまく動かなかったのには、苦労しました。

「eコンパス」とは、方位磁石と同じように地磁気を検知する機能を持つ「電子コンパス」です。GPSよりも精度が高く、確実に自分が向いている方向を知ることができ、地図を進行方向に合わせて表示することができます。

Tablet 2はデジタイザーペンを検出するためのデジタイザーシートがLCDの裏についており、それとeコンパスとの相性が良くなかったのです。そこで、ペンの性能とeコンパスの性能が両立できる案の検討を繰り返しました。検討の内容は、eコンパス自体のチューニングやデジタイザーシートとeコンパスの位置関係の見直しなどです。メーカーとのやりとりの末に、eコンパスを担当した若いエンジニアの努力の結果、開発の最終段階で解決できましたが・・・冷や汗ものでした。

 

- 聞いているこちらも汗が出そうです・・・お疲れ様でした(笑)。最後に将来に向けての話はありますか?

川北: ノウハウは蓄積されたので、早くリファレンスデザインを策定しブレのない開発手法を確立したいですね。

しかし、まだ色々検討していかなければならないこともあります。例えば、タッチパフォーマンスはスムースさやレスポンスの良さだけではなく、色んなものの組み合わせだと思うんです。ウエイトバランスや画面の美しさなども関係あると考えています。タッチパネルを搭載した製品が増えて行くので、今後はそれらをもっと考慮したいです。

タッチ技術の進化は日進月歩です。最新製品の研究を重ねて、常にユーザーエクスペリエンスを考慮した製品開発していきたいと思います。

ThinkPad Tablet 2を持った、川北 幸司

 

土橋: タッチパネルのユニットの厚みにもっとチャレンジしたいですね。大きなパーツの要素だけでも4つ、高強度ガラス・ダイレクトボンディング・LCD・デジタイザーシート、これらを技術の進化と共に薄型化していくのが課題です。

そして次期モデルでは、デジタイザーペンに消しゴム機能を復活させたいです。Xシリーズのコンバーチブル機では消しゴムがありましたから。他にも・・・滑りにくいゴム塗装・高いデジタイザー精度・適切な筆圧の感知など、もっともっと本物のペンのような書き心地を目指したいです。

後これは日本のお客様が参加する「大和魂ミーティング」でもらった宿題なのですが、「キーボードが使う時はタブレットをがっちり保持できる」製品を検討しなければ・・・。あ、これは私の担当ではないので、プロジェクトチームの皆様、よろしくお願いします(笑)。

ThinkPad Tablet 2を持った、土橋 守幸